高松高等裁判所 昭和30年(う)626号 判決
まづ職権で記録を精査するに、本件起訴状によればその第二には「被告人が昭和三〇年二月二〇日頃真部友一選挙事務所において選挙運動者新谷清三から同人が前記真部候補者の当選を得しめる目的でその選挙演説等の運動報酬(実費を含め)として供与することの情を知り乍ら現金一万円の供与を受けた」旨記載の存するところであるが原審第一回公判調書によれば検察官は弁護人の釈明に対し右「実費を含め」なる記載の趣旨を説明して、実費の額、使途は不明であるが実費を超える部分についての起訴である旨供述していることが明らかである。結局右の趣旨は起訴状の記載と対照すれば同記載の金一万円中実費を除外したものを起訴するものであるというにあると解せられる。
(右金一万円が全額実費を除いたものであるとの趣旨の供述とも解し得ることくであるが右文理自体並びに原審第三回公判調書中の検察官の追徴に関する意見からも然らざることが明らかである。)従つて該除外部分の金額を特定せざる以上当然起訴にかかる報酬額は特定せず結局公訴事実の特定を欠くに至つたものというべきである。(もとより実費と報酬を不可分に受供与されたときは全額につき受供与罪は成立すべく、本件起訴状はその趣旨によるものと認められるが前記検察官の陳述はこの起訴状を維持するものとは解されない。)従つて検察官において之を特定しない以上裁判所はこれが訴因の特定を命ずべく、特定なき限り之につき審理判断を為し得ないものというべく、原審の訴訟手続はこの点に法令の違反があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから破棄を免れない。
(裁判長判事 三野盛一 判事 塩田宇三郎 判事 合田得太郎)